【質問】
P80にありますステンレス材料のうち、フェライト系ステンレスより、オーステナイト系ステンレスが応力腐食割れしやすい理由はどのようなことでしょうか。
また、文献ではNi含有量が10%程度で最も応力腐食割れを起こしやすいというものも見られ、その理由も分かれば、教えていただきたいです。
【回答】
①ステンレス鋼の塩化物水溶液中の応力腐食割れは、p.62の左図と考えられます。
すなわち、き裂先端でアノード反応が進行しつつ、かつ、き裂側面のアノード反応が不動態皮膜で抑制されています。
フェライト系ステンレスが、同等Cr量のオーステナイト系ステンレスに比べて、応力腐食割れし難い理由は、
「き裂側面が不動態皮膜で保護され難いため、割れではなく孔食の形態になる」
と考えられます。
これには、き裂内(孔食内)でステンレス鋼成分が溶解した溶液組成、
と、き裂内(孔食内)表面の電位分布、の2つの因子が影響すると考えられます。
p.94にあるように、フェライト系ステンレスといえども、NiやCuを含むと応力腐食割れが発生し易くなります。
②Ni含有量が10%程度で最も応力腐食割れを起こしやすい理由としても、
上記の2つの因子の影響と考えられます。
さらに、Ni含有量が10%程度のオーステナイト系ステンレス鋼は、
オーステナイト相が不安定なので、き裂進展に伴う塑性変形によって、
オーステナイト相がマルテンサイト相に変態して、き裂が進展し易くなる、との説もあります。
これには、マルテンサイト相の水素脆性が関与するとの考え方もあります。